ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説 3.始まり 1話

3.始まり

1話


うーん。何着ていこっかなー。

沙耶はクローゼットの洋服たちとにらめっこ。
まぁ、あんまり気合いを感じさせないように。
かつ、カジュアルになりすぎず。

やっぱこれかな。

シャツにスキニーのデニム。
ロングのカーディガン。
足元はパンプスできまり。

長い髪を少しだけ高めに結ったが、昔から気にしているうなじのあざがやっぱり気になって下ろした。

気分を変えて、ピアス。
照明に照らされ、キラキラと一層強く輝いた。

よし!
緊張して、手先が冷たくなるくらいだが、目一杯テンションをあげていつもの明るさをセットする。

歩いて20分くらいかな。
研修会はもちろんないので、家からレストランに向かう。

明るく照らす満月。
月って何だか神秘的。
そんなことを考えながら歩いていくと、左手にレストランが見えてきた。

木を使ったナチュラルな外観が暖かい雰囲気を漂わせ、さりげなく飾られたセンスのいい明かりが照らす。

ピコン。

『着いたよ。まだ時間あるから焦らず来て。』

匠も到着したようだ。

「さぁ、始まりね。」

沙耶はレストランへ入っていった。
なんだろ。なんか頭の隅がうずく。
とにかく、落ち着いて。
なるべく意識しないで、女友達だと思えばいい。

「こんばんは。」唇が少し震える。
気付かれませんように。

席は窓際の外の灯りが見えるテーブルだった。
正方形のテーブルには対面で二人の食事のセッティングがされていた。

よかった。対面で。カウンターとかじゃなくて
沙耶はある程度の距離にホッとした。

「料理は何がオススメ?なんか、チェックしてるのあったりする?」

「あ、はい。ローストビーフ!
 ソースが絶品とか。」

「いーねー。じゃとりあえずそれは外せないね。
 あ、この、サーモンのクリーム煮もうまそっ。
 頼んでいい?
 サラダも欲しいんじゃない?」

沙耶の意見もきちんと聞きながら、自分の意思も言ってくれる。
スムーズに楽しくオーダー。

沙耶は心地よさを感じた。
仕事柄こういうところはつい気にしてしまう。

匠と沙耶は仕事の話しやら、友達の話しやら、とりあえず当たり障りのないことから話していた。

料理は期待通り、ローストビーフがとても美味しくて、二人で思わず目を見合わせて感激した。
他の料理も綺麗におしゃれに盛り付けられているにも関わらず、なかなかのボリューム感もあり、職場のグルメな同僚にも今すぐ報告したいくらいだった。

「あー美味しかった。どれもすごく好きな味だったな。来れてよかったぁ。」

満足そうに微笑む沙耶。

その笑顔を、テーブルのキャンドルが照らした。

ほんとに綺麗だな…。

匠はつい沙耶に釘付けになっていた。

「どーかしました?」

あ、見てたのバレた!
うわーはずかし。

「あ、いや。その。
 あ、ピアス。ピアスキラキラしてる、から、
 綺麗だなって。
 見てた。 あ ごめん。」

フッと優しく笑う沙耶。
なんとか許容範囲な距離と匠の穏やかな雰囲気のお陰か、今のところ大丈夫な感じだ。
緊張もほぐれている。

「どーして謝るの?
 これね、綺麗でしょ。
 大事な人が昔くれたの。もー会えないけど。」

大事な人? だよな。そりゃそーゆー人いるよな。

今までジェットコースターの登りをいい勢いで登って、頂点で良い景色を見ていたかと思ったが、
そう、その後に来るのは急降下でしょ。

ん?もー会えない?
別れたのか?

急降下かと思えばフェイク降下。
とりあえず加速を始めるコースター。
まぁ、そんな感じか。

匠は次にどんな急降下が来るのかの不安と、次はどんな楽しみがあるのかの期待を抱いていた。

匠の心は沙耶によって浮き沈みをしている。
そう。完全に沙耶に惹かれ始めている。

帰りはさすがに断るうまい言い訳が無く、匠の車で送ってもらうことになった。
至近距離で顔がこわばり、手が震えるのを必死で隠した。

次の週末に、今度は匠のリサーチしていたレストランに行く約束をして、今夜のデート?はお開きにした。

「じゃ、またね!おやすみ」
「ありがとうございました。おやすみなさい。」

沙耶は精一杯の笑顔を向け、手を振って部屋に入った。
未だ少し震える手で匠にLINEした。

『今日はありがとうございました。
 すごく美味しかったし、楽しかったです。
 来週も楽しみ♡』

沙耶には匠に自分を気に入ってもらわなくては困る理由がある。

一方、沙耶を家まで送り届けての帰り道、匠は百面相をしていた。

あーやっぱ綺麗だったなー。ニヤリ
服のセンスも俺好み。ニヤッ
やっぱ好きな人とかいた?いる?のかな 泣き
でももー会えないけどってどーゆーことなんだ? はてな顔
あー聞きたいっ

でもまだ会って1週間ちょいだぜ?
そんなこと聞けないし
あー気になるー

匠の頭の中は沙耶で埋め尽くされていた。

ブブーッ。パッパー。
キーッ。

赤信号で停車していた匠の車の後ろから、ブォンブォンと迷惑他何んでもない不快な音をたてながら、数台のバイクが通り過ぎて行った。

行く道を遮られたり、邪魔されたりして、急ブレーキや急ハンドルを切らされクラクションを鳴らすドライバーたち。

辺りは特命24時みたいなテレビでみるような、光景になっていた。

ズキンッ。

また匠の頭に激痛が走る。

頭によぎるバイクのライト。

けたたましい爆音。

んーっ。
匠はこめかみを押さえて、ハンドルに顔をうづめた。

あたまが割れそうに痛い。
意識が遠くなっていく

タイトルとURLをコピーしました