ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説 32.小さな温もり

「え?」

「赤ちゃんができたみたいなんだ。」

沙耶は匠のまっすぐ向けられる視線を避けて、もう一度言った。

「ほんとに??」表情が急に驚くほど明るくなって、沙耶のお腹にそっと手を置いた。

「だからこんなにあったかいのか?」

「おーい?ちび。ここにいるのか?」

匠の様子に、沙耶の頬には一雫涙がこぼれた。

「嬉しいの?」

「え?なんで?嬉しいに決まってんじゃん?」
沙耶の問いかけに逆に不思議そうに聞き返した。

沙耶は匠のそっと大事そうに触れるお腹に、手のひらを重ねた。

『やっぱり、こんな気持ちになるのが本当だったんだ。
ヒロ…あなたの時も、ちゃんと嬉しかったからね。』

沙耶は心の中でそう呟いた。

沙耶の涙を人差し指で拭うと、その手は沙耶の顔を優しく包んみ込んで、静かにゆっくりと匠が口を開いた。

「沙耶。結婚しよう。」

沙耶は黙って大きく2回頷いた。

二人とも、『今日だけ、忘れさせて。』そう心の中で許しを唱えた。

沙耶の持つ事実と匠が追う事実が重なる日は、…そう遠くない。

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