ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説 33.責任

匠は沙耶を送って家に着くと、またあの男の言った言葉が頭に浮かんで、支配する。

「また、人殺めちゃうの?」

なんだよそれ。俺がいつ?誰を殺したって?

全く記憶にないが、匠にはぷっつり記憶が無い日があるのがたまらなく怖い。

誰かあの時のことを教えてくれよ。
一体何があった?まさか、ほんとに俺は人を?

どこにもぶつけられない不安と、苛立ちで頭がまた激しく痛む。

くそっ。痛みで吐き気がする。

しばらく頭を抱えて目をつぶっていたが、机の上に置いたスマホがブブブとバイブを鳴らしているのに気づいた。

沙耶かな?

匠はよろつきながらスマホを手にした。

知らない番号だ。

なんとなく気になって、応答を、タップして黙って耳に当てた。

…。

なんだ?何も聞こえない。

痺れを切らせて匠は聞いた。

「誰?」

「クックック」

耳元にいやらしい笑い声が響き、思わずスマホを遠ざけた。

聞き覚えのある不気味で気持ちが悪い感じだ。

「この間はどーもぉー。」

奇妙に薄笑いながら、まとわりつくようなネチネチした声でそう言う。

「公園で会ったでしょー?ほら。あの…事故の公園。」

匠はやっぱりあいつかと顔をしかめたが、言葉は発しない。
黙ってこいつの様子を伺った。

「ねーねー。色々知りたくなったーぁ?教えてあげてもいいよー?」

その言葉に少し反応してしまった。

「何か知ってるのか?」

匠は消えた記憶が気になるのは確かだが、知るのが怖いのも確かだ。

でも、このまま何がなんだかわからない状態もかなりきつい。

「父は、何か知ってるのか?」

クスッとバカにしたように笑って
「知ってるも何も、全てを動かしてるのはお父様だからねー。」

くすくすくすくす。
何とも不愉快な笑い方に匠は苛立って唇を噛んだ。

「もーいー。あんたには聞かない。」

「まぁ、ご自由にーどーぞー。笑」

匠は最後まで聞かずに、電話を切って父親の部屋に向かった。

親父に聞くしかない。今までみたいにとぼけるなよ。

部屋の前で、大きく深呼吸してノックをし終わらないうちに
ドアを開けた。

皮張りの椅子に腰掛けて、コーヒーをすする父親は、匠の訪問に驚く様子もない。

なんだ?来るのが分かってたみたいだ。

少し拍子抜けしたが、そんな場合じゃない。

「この間の公園で会ったあの薄気味悪い男は、一体誰ですか?」
「何を話してたんですか?」

父親は、表示を変えず引き続きコーヒーをすする。

しばしの沈黙の後、匠がつぶやくくらいの消えてしまいそうな声で聞いた。

「俺は…」

「俺は誰を殺した?」

父親のカップが唇に触れる寸前に止まった。
冷静を装っていたが、
何かが頭の中を巡りまわっているようで、視線が忙しなく動く。

やっば父さんが全て知ってるのはたしかだ。
たが、「何の話だ?」
そういつものように冷静に言って欲しかったって思いもする。

俺は人を殺してしまったらしい。

沙耶…ごめんなぁ。

一瞬にして未来の明るい光は、消え去った。

タイトルとURLをコピーしました