ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説 4.温もり 2話

2話

だめだってば。

沙耶は大人になってずっと、人に寄り掛からず生きてきた。
もちろん、子供の頃は両親はじめ、みんなに支えられて、愛情をたくさんもらって生きてきた。
だからその愛おしさや温もりは覚えてる。

運動会には必ず真っ白な綺麗な体操服を、どんなに家計が大変な時も着せてくれた母。
普段無口な父でも、毎年誕生日には必ず自らケーキを買ってきてくれ、おめでとうを言ってくれた。
どっちが先におめでとうを言ったか、父母は喧嘩してたっけ。

独り立ちしてから初めて、誕生日に当たり前にケーキは出てこないことに気がついた。
その時、今まで自分がどんなに愛され、幸せに過ごしてきたかわかった。

だからこそ、自分が子供を持った時自分がもらった沢山の愛情を注いでいこうとずっと思い続けていた。

「なんだよ。また息子のこと優先か?俺はどーでもいいのかよ。」

沙耶は家庭を持っていた。

始めは優しくて、とにかく沙耶を愛していた夫。
沙耶もその気持ちを愛おしいと思い、大切にしていた。

いつも沙耶を側に置き、沙耶だけを見て、とにかく抱きしめてくれた。
疲れている時も、体調が悪い時も、酔っ払っているときも、常に沙耶の手を離さなかった。

沙耶もそれがたまらなく嬉しくて、夫だけを見てそして尽くした。

そして、まもなく新しい命が沙耶に宿った。

沙耶はとても嬉しかった。
もちろんすぐに夫に報告した。

「聞いて!赤ちゃんできたの‼︎」
愛するひととのこどもを授かった。
その感動にとびっきりの笑顔をむけた沙耶。

しかし

夫の反応は沙耶には想像もしていなかったものだった。

「そうなんだ…。別に欲しくなかったのに。」

寄り掛かろうとした、寄り添っていたとおもっていた物が実にもろくて、頼りない事に気が付いた時の落胆や緊張感を初めて感じた。

沙耶は、男性にはよくある事。
こどもが生まれればきっと可愛がってくれる。
そう言い聞かせた。

でも、沙耶が思っていたよりも夫は父親にはなれなかった。

「いいじゃん。大丈夫大丈夫。俺我慢できないし。」

まだ安定期前の沙耶に、夫は身体を求めた。

「もう少しだけ待って。あと数週間。」

「は?数週間っていつよ?
 いつになったらやらせてくれんの?」

「ごめんね。再来週検診あるから。その時聞いてみるね?」
まるで子供をなだめるかのように、沙耶は必死でお願いした。

「えー。ねー俺我慢できないよー。
 俺可愛そうじゃないの?愛してないの?
 もーいー。まじむかつく。」

こんなやりとりが繰り返されるたびに、沙耶の夫への気持ちは少しずつ変わっていった。

それでも、子供が生まれ、小さな我が子を恐る恐る抱く姿は、もしかしたら変わるかもしれないと沙耶に少しばかりの期待を持たせた。

女性には母性本能があり、子供を育てたり、守ろうとするというが、これは男性にもあるらしい。

母性本能は生命の維持、父性本能もあるらしく、これも同じ子供を守るという本能だか、社会的な方面を担うらしい。
もちろんどちらの本能も個人差はある。

だが、大体の人はそれを備わって夫婦でバランス良くこどもたちを守るのだ。

夫にはそれがあまりなかったのか、潜在して引き出せていないのか。
とにかく、沙耶の愛情が子供に向くことが気に入らなかった。

生まれたばかりの赤ん坊の世話で、ただでさえ忙しいのに沙耶は夫の機嫌取りと言う、面倒で腹立たしい仕事が増え心身共に疲労困憊だった。

沙耶の救いは、沙耶の愛情を一身に受け、なんの疑いもなく信じて笑顔を向けてくれるこの無邪気で可愛いこの子だけ。
夫の願望とは逆に、沙耶の心は息子だけのものになっていった。

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