ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説  40.気持ちの迷子

「あちゃー。」
ホラー映画の特殊メイクのごとく腫れ上がった瞼を見て、沙耶は声を上げた。

「冷やして寝たら良かったー。」

一晩中匠と泣いた沙耶は、穏やかに微笑んだ。
小さな命を失ってしまったこと。
とても悲しい事だけど、あのまま忘れてしまわなくて本当に良かった。

『もしあのまま思い出さなかったら、あまりにも子供がかわいそうだよ。』

匠はそれを聞いて、下を向いた。

昨夜匠に言った気持ちだ。

「ごめんな。俺は逃げようとしてた。沙耶がこのまま忘れた方がいいかもしれないって。そういう気持ちも少しあった。弱っちーな俺。」

「私の為でしょ?私が思い出して悲しむのを心配して、ひとりで見送ろうと、ひとりで背負おうと思ってたんでしょ?」

沙耶は匠を優しく抱きしめた。

「馬鹿。ひとりじゃ重くて背負いきれないよ?良かった。思い出して。」

匠は朝から出勤で、もう部屋を出た。
沙耶と同じで、目が見事に腫れて仕方なくメガネをかけて、ちょっと疲れた様子の匠を見送った。

まだ見ぬ小さな命をあんなに愛おしく感じてくれていたと思うと、沙耶は…あらためて失ってしまった事が悲しくなった。

元気に無邪気に笑う子供を真ん中に、匠と沙耶3人で幸せそうに微笑む。
幻になってしまった、そんな風景が思い浮かんで悔しい。

変だな。匠を悲しませることが出来たじゃない?
復讐がひとつ出来たんだよね?

ねぇ、ヒロ。どーしてママはこんな気持ちなんだろ?

写真立のヒロは、いつものように笑っている。

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