1話
匠の告白から一転、結城と再会した沙耶は、ヒロとの蘇る思い出に微笑んでは、怒り、やり場のない悔しさに苛まれる。心はそんな不安定な空模様だった。
ほんの少し、ほんの少しだが、匠の優しさにふれて心の中の冷たくて、とてつもなく重い氷が溶けるような感覚を、沙耶は認めたくはなかったが、感じていたのに……。
蘇った記憶はそれを裕に超えてまた冷たく凍らせてしまう。
沙耶は小さい写真たての中の屈託のない笑顔に呟いた。
「見ててね。ヒロ。」
とにかく私を愛させる。愛して愛して愛して……どうしようもないくらい愛おしい人を失う悔しさを味合わせるの。
そう。私と同じ思いを。
沙耶の目は復讐に燃えていた。その奥の奥には、何故か悲しい目がひっそりと見えた。
「さー、あと1日頑張れば週末!長かったー!!」
「何ですか?先生。週末何か楽しみでも?」
側にいた看護師のおばちゃんにニヤニヤしながらからかわれた。
「あ、いや。楽しみというか何というか……ははっ。あははっ。」
職場でのこーゆーやりとりはどうも苦手だ。
何で口に出ちゃったんだろ。
「無理もないか。付き合って、初めての週末。
楽しみにしない方がおかしぃでしょ?」
あ、やば。また口にでてる。
匠は辺りをキョロキョロして、舌をだした。
どうしよっかなー。どこ行く?
あ、今度は俺リサーチのレストラン行く約束はしたな。
とりあえず、約束をとりつけよう!
ピコン
「あと1日で、週末だね。予定は?」
沙耶は静かに携帯を手に取った。
「会いたい。1週間長かった。」
沙耶は淡々とそうLINEした。
嘘なのか、本心なのか。
もちろん、匠は疑うわけもなく、胸をキュンキュンさせた。
「俺も会いたい。」
それぞれ皆想いがある。