ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説  36.忘れた時間

沙耶は病院からの帰り道。
夕暮れで真っ赤に染まった低めの空を背に、検診でもらったエコー写真を握りしめてトボトボ歩いていた。

「頭痛いなぁー。」

元々偏頭痛持ちだが、それとは違う痛みだった。

「色々考えすぎて、脳みそが沸騰してるのかな。」

♪携帯着信音

匠からだった。沙耶は慌てて電話にでた。

「もしもし。どこにいるの?体調悪い?」

妊娠のことを告げてから、一度も連絡がなかった。
自分もあまり気持ちに余裕がなくて、連絡してなかったのに今気がついた。

「沙耶…。」とその声を聞く前に、沙耶は頭にズキンと痛烈な痛みを感じだと思ったら、急に目の前が真っ白になり気を失った。

「?沙耶?」

いくら耳を澄ませしても沙耶の応答は聞こえてこない。

かすかに聞こえるのは、子供達の笑い声と何か金属音?みたいなカキーンと言う何かの音。
それと、電車?の音。

とりあえず、沙耶のところに行かないと。
頭をフル回転させて、居場所を推理する。

子供。 カキーン。
学校?嫌。違う。この近辺の小学校も、中学校も電車は近くを通らない。

電車が通って、子供達が遊べるような広いところ…。

考えろ。考えるんだ。

…。河川敷だ!

匠は子供たちが良く、野球をしてあそぶ広場ある河川敷へ急いだ。

「一体何があった?頼む!無事でいて!」

河川敷には、散歩をする老人夫婦。
犬の散歩をする人。
でも沙耶の姿は見えない。

「もう少し向こうか?」

すぐそこの広場には子供達の姿はない。

もう少し先を目を細めて見ると、かすかに向こうの広場には子供たちがいる。

匠はすっかり体力がなくなっていたが、必死に気持ちを奮い立たせ走った。

向こうから、ガタンゴトンと電車の音も聞こえる。

「この辺で間違いないな。」

辺りを目を凝らして探る。

「沙耶!どこにいる?」
「返事してくれ?」

全く気配がない。

沙耶の携帯を鳴らしてみると、かすかに着信音が聞こえた。

音をたどると携帯だけがひとりポツンと取り残され音を奏でていた。

おい、お前の主人はどこだよ?

少しずつ目線を下へ落として行くと、やっと沙耶にたどり着いた。

「沙耶!」
「どーした?何があった?」

土手の下の方に倒れていた沙耶を抱き上げると、沙耶は顔をしかめながらうっすらと目を開けた。

「よかった。どーした?転んだのか?どっか痛む?」

沙耶がお腹を押さえて、苦しそうに匠の腕を掴む。

「おい、大丈夫か?お腹打ったのか?」

匠はすぐさま救急車を呼ぶ。

沙耶の顔色がみるみる白くなっていく。
小さな小さな命が消えかかろうとしている。

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