窓からさす太陽の光が少し眩しく感じて、少しずつ目を開けた。
なんとなく怖くて、なるべく動かないようにして辺りを見回した。
「ここはどこ?」
呟くと、ベッドの隅に顔を沈めていた匠が慌てて覗き込んできた。
「沙耶!目が覚めた?大丈夫か?痛いとこあるか?」
沙耶はクスッと笑った。
「質問多すぎ!逆にどーしたの?そんなに慌てて。」
ベッドから起きあがろうとすると、とんでもなく身体が重たい。
え?何?
ってか、なんで病院?
不思議そうに首をかしげながら匠を黙って見つめた。
匠は次に沙耶の口から出そうな言葉を無意識に推測していた。
「私、どうかしたの?」
匠はやっぱりかと心の中で正解を受け入れた。
倒れた事を覚えていないみたいだ。
一時的な記憶喪失か?
「大丈夫。怪我は擦りむいたくらいだよ。河川敷歩いてて、倒れたんだよ。」
「覚えてない?かな?」
「んー?…なんか、頭が痛くなって。それからはわかんない。今に至るって感じ笑」
沙耶は何となくおちゃらけて答えた。
なんだろ。この変な感覚。前にもあったような。
何か忘れてる気がする…。
気になるけど、匠にはいつも心配ばかりかけてるし聞けない。とりあえず身体は何ともなくてよかった。
「でもさ、入院なんて大袈裟じゃない?転んですリムいただけなのに。」
匠は沙耶に微笑んだが、精一杯でもほとんど笑えてなかった。
沙耶に話さないといけない。お腹の小さな命が旅立ってしまったこと。
気にする様子を見せないのは、大丈夫だと信じ切って疑いもしてないからだろうな。
「?どーしたの?」
匠は目を閉じて深く深呼吸した。
よし。
「あのな、沙耶。」沙耶の手を握り締めて言った。
「子供の事だけど…残念だけど、」
「子供?」
沙耶はキョトンとして匠を見つめた。
「誰の子供?」
「……。」匠は言葉を失った。
沙耶の記憶から消えている?
「あ、えっと、その、あれだよ。沙耶が倒れてるのを教えてくれた子供達のこと。」
「何かお礼しないとな。」
「あ、そーなんだね。それはちゃんとありがとう言わなきゃだ!あの野球してた子達かな。そっかそっか。」
「まぁ、とりあえず倒れた原因も調べた方がいいし、少し入院しような。ほら、もう横になって。」
「あ、うん。そうする。いつも心配かけてばっかりでごめんね。」
匠を見送る沙耶は、やっぱりなんだかモヤモヤする違和感を感じた。
なんだろー。この気持ち悪い感じ。私、あそこで何してたんだっけ?