ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説  37.忘れたこと

窓からさす太陽の光が少し眩しく感じて、少しずつ目を開けた。
なんとなく怖くて、なるべく動かないようにして辺りを見回した。

「ここはどこ?」

呟くと、ベッドの隅に顔を沈めていた匠が慌てて覗き込んできた。

「沙耶!目が覚めた?大丈夫か?痛いとこあるか?」

沙耶はクスッと笑った。

「質問多すぎ!逆にどーしたの?そんなに慌てて。」

ベッドから起きあがろうとすると、とんでもなく身体が重たい。

え?何?
ってか、なんで病院?

不思議そうに首をかしげながら匠を黙って見つめた。

匠は次に沙耶の口から出そうな言葉を無意識に推測していた。

「私、どうかしたの?」

匠はやっぱりかと心の中で正解を受け入れた。
倒れた事を覚えていないみたいだ。
一時的な記憶喪失か?

「大丈夫。怪我は擦りむいたくらいだよ。河川敷歩いてて、倒れたんだよ。」
「覚えてない?かな?」

「んー?…なんか、頭が痛くなって。それからはわかんない。今に至るって感じ笑」

沙耶は何となくおちゃらけて答えた。

なんだろ。この変な感覚。前にもあったような。
何か忘れてる気がする…。
気になるけど、匠にはいつも心配ばかりかけてるし聞けない。とりあえず身体は何ともなくてよかった。

「でもさ、入院なんて大袈裟じゃない?転んですリムいただけなのに。」

匠は沙耶に微笑んだが、精一杯でもほとんど笑えてなかった。

沙耶に話さないといけない。お腹の小さな命が旅立ってしまったこと。
気にする様子を見せないのは、大丈夫だと信じ切って疑いもしてないからだろうな。

「?どーしたの?」

匠は目を閉じて深く深呼吸した。
よし。

「あのな、沙耶。」沙耶の手を握り締めて言った。

「子供の事だけど…残念だけど、」

「子供?」
沙耶はキョトンとして匠を見つめた。
「誰の子供?」

「……。」匠は言葉を失った。

沙耶の記憶から消えている?

「あ、えっと、その、あれだよ。沙耶が倒れてるのを教えてくれた子供達のこと。」
「何かお礼しないとな。」

「あ、そーなんだね。それはちゃんとありがとう言わなきゃだ!あの野球してた子達かな。そっかそっか。」

「まぁ、とりあえず倒れた原因も調べた方がいいし、少し入院しような。ほら、もう横になって。」

「あ、うん。そうする。いつも心配かけてばっかりでごめんね。」

匠を見送る沙耶は、やっぱりなんだかモヤモヤする違和感を感じた。

なんだろー。この気持ち悪い感じ。私、あそこで何してたんだっけ?

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