匠は、主治医と沙耶の様子について話していた。
「外傷は足の擦り傷くらいだよ。手首がすこし気になったから調べたけど異常なし。」
「そうか。ありがとう。」
「…子供のことは、残念だったな。もう本人に話したのか?」
「いや、それが…。 様子がおかしいんだよ。」
「ん?どーゆー事?おかしいって?」
「もしかしたら…お腹に子供がいたことを忘れてるかもしれない。」
「え? つまり? 記憶喪失?」
「まだ確定ではないけど。」
カタッ。
匠たちは一斉にドアの方を振り返る。
ドアの外を見に行くが、誰がいたわけでもなかった。
「?風か?」
柱の影に隠れた沙耶は、頭の中で超高速で記憶を巻き戻して、今聞いた事を探している。
「子供?」
お腹を触ってみる。
でも全く記憶にない。
忘れた?何を?子供?なんのこと?
いくら記憶をたどっても、分からない。
沙耶は病院を後にした。