38.空白

匠は、主治医と沙耶の様子について話していた。

「外傷は足の擦り傷くらいだよ。手首がすこし気になったから調べたけど異常なし。」

「そうか。ありがとう。」

「…子供のことは、残念だったな。もう本人に話したのか?」

「いや、それが…。  様子がおかしいんだよ。」

「ん?どーゆー事?おかしいって?」

「もしかしたら…お腹に子供がいたことを忘れてるかもしれない。」

「え?  つまり?  記憶喪失?」

「まだ確定ではないけど。」

カタッ。

匠たちは一斉にドアの方を振り返る。
ドアの外を見に行くが、誰がいたわけでもなかった。

「?風か?」

柱の影に隠れた沙耶は、頭の中で超高速で記憶を巻き戻して、今聞いた事を探している。

「子供?」

お腹を触ってみる。
でも全く記憶にない。

忘れた?何を?子供?なんのこと?

いくら記憶をたどっても、分からない。
沙耶は病院を後にした。

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