「もしもし?沙耶? 今日何してる??」
亜紀からのお誘いの電話だ。
いつもの、彼氏の愚痴を聞かせる為だろう。
「あーごめん。ちょっと体調悪くて。
大丈夫大丈夫。ただの風邪だから。寝れば治る。
また誘って。」
とても、付き合ってあげられる気分じゃなかった。
通話を終えて、携帯の画面がホームに切り替わる瞬間、沙耶は目をつぶる。
LINEに赤いマーク、着いてる?
ショッピングモールでの少年の事故以来、匠から連絡はない。
LINEさえもこない。
「なにしてるんだろ?」
あの男の子の事も気になるし、やっぱり、匠のことも心配だ。
あの日の手術室の前での、匠の様子が鮮明に思い出される。
私、何心配してんの?
沙耶は自問自答した。
いや。気になるのは男の子の容体。
「よし。連絡してみよう。…………なんて?」
なんて言って連絡するか、これは難題だわ。
普通に? 元気? ……それは軽すぎるよね。
男の子は?…… 直球すぎるか。
ピコン。
夜中の病院の屋上で、匠の携帯が鳴った。
「大丈夫?」
ふふっ。匠はすこしだけ微笑んだ。
大丈夫……じゃないかも。
匠は心の中で呟いた。
ピコン。
ウサギがVサインのスタンプ。匠から届いた。
……。「これさ、大丈夫じゃないんだよね?多分。」
沙耶は気がつくと、匠に電話を掛けていた。
「もしもし。」
匠の声が少しかすれていた。
「あ、もしもし?」
掛けたはいいけど、何話すか考えてないじゃん!
「あ、あの。えっと……何 してるかなーと 思って……。
何となく 電話しちゃった んだよね。……ごめん。」
……。匠は聞いてるのか?返答なし。
「あ、ごめんね。忙しいよね。ちょっと、気になって。
……じゃ、切るね。
んーでも、ちょっと声だけ聞かせて。大丈夫?」
あーしまった。やっぱり電話するんじゃなかった。
「はぁー。」
匠の大きなため息。
「声聞きたかった……。」
「え?」
「沙耶ー。会いたい。」
沙耶の胸はキューと音を立てて鼓動した。