ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説 16.罪悪感

1話

匠の胸の中で久々に感じた安心感は、後になって罪悪感に変わった。
なんでここで、ほっとしてる?

ヒロをわたしから奪ったのは匠。辛いのは匠のせい……なのに。

沙耶は頭を揺さぶった。

今日は朝から吐き気がする程の偏頭痛で、会社を休んでしまった。

「もう疲れたぁ……。」
なんとなくそう呟いた。

さっきまで部屋を暗くして眠っていたが、開いていた窓から陽の光と気持ち良い風が入ってきて、カーテンがそよそよと揺れた。

それを何となく見ていると、プランターに水やりしながら、こっちをみて微笑むヒロがいるような気がした。

沙耶はそっちがすごく心地よい場所にみえて、吸い込まれるようにベランダに足を向けた。

窓の外に出ると、太陽の光が迎え入れてくれるようで身体がふわっと軽くなったような気がする。

「このまま飛べそうな気がする……」

ヒロの姿はなかったが、なんだか心が軽くなって幸せな気分だった。

ピーピーピー

洗濯機の終了の音が鳴って、沙耶は急に現実に引き戻されて足を止めた。

だれもいない。

シーンとしたいつもの一人の空間。

換気扇の音が妙に大きく聞こえる。

「ヒロ……迎えに来て。」
沙耶の気持ちは複雑に揺れ動いて、疲れきっていた。

匠と過ごす時間とその後のひとりの時間

安心感と、罪悪感。

好きと言う気持ちと、憎いという気持ちの中で揺れて落ち着かない。

匠に愛される程、深く傷付けられる、復讐できると思っていた。

いまは……愛した分自分も傷付くことに少しずつ気づき始めている。

匠が好きだ。

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