ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説 19.父親

「あ、もしもし?沙耶? 夜迎えに行くから。
 うん。また出る時連絡するな!」

今夜はバスケの試合を観に行く約束をしている。

勤務終了時間が待ち遠しかったが、夕方からやけに忙しくて、あっという間に約束の20分前。

「やばっ!間に合うかな。」

急いで着替えて車を出したが、やっぱりこういう時は定番の超渋滞。

「あーなんだよこれ!」

匠は沙耶に少し遅れる事をLINEして、混まなそうな裏道を頭の中で辿った。

「よし、あっちの道にしよ」

少し遠回りだが、あんまりメジャーじゃない混まない道に進むことにした。

「やっぱこっちで正解!」

匠の読み通り、車がほとんど通らず渋滞なんて絶対なさそうな道だった。
でも、街灯もあまりなく、とても見にくい。

「しかし、暗いな。」

少しスピードを下げたが、ふっと道を横切る何かが一瞬にして目に飛び込んできたので、思わず反対車線にはみ出してしまった。

と、その瞬間、視線の向こうにハイビームの眩しいライトの光が匠の視力を奪った。

「うわっ何も見えねー!」

とっさに左にハンドルを切る。

と、次に目の前に現れたのは少し広くなった路肩の向こうの林だった。

「うわっ!」

キキーッ。ドンっ。
パラパラパラ。

「はぁはぁはぁ。」
息があがっていたものの、どこに痛みを感じない。

「死んではないな……。」

車の外にでて、状況が分かった。

「木に突っ込んだわけね。」

道の両側に、広がる杉の木に突っ込んだものの、スピードを落としていたので木を折って下敷きになることもなく、ボンネットに少し食いこんだくらいだった。

「あーぁ。」

とりあえず、沙耶に電話して説明した。

うちにもしとくか。

母親に電話すると、しばらくして珍しく父親が来た。
こういう時はたいてい、姉が来てくれるのだが。

車はレッカー車に運ばれて、匠は父親に連行された。

父親はとにかく無言で、怖い顔をしていた。
いや、怖い顔は今日に限ったことではなく、こういう表情の人なのだ。

いつも通り重ーい沈黙に耐え、うちに着いた。

やれやれと思ってため息をつきながら、車を降りると、沙耶が立っていた。

「沙耶?」

沙耶は匠に気がついて、今にも泣き出しそうな顔をして駆け寄ってきた。

「怪我は?痛いとこある?」

大丈夫だよと言う前に、「誰だねそちらは?」
父親が低い声で沙耶の言葉を遮った。

沙耶は気が動転していて、父親が目に入っていなかったようで、またまた慌てて言葉がでなかった。

匠は沙耶をガシッと支えて、「父さん、今お付き合いしている人です。」

沙耶はあわてて、頭を深く下げた。

父親はじろっと沙耶を見て、黙って家に入って言った。

匠と沙耶はその姿をポカンと見送ったが、父親の方は、沙耶に何かを感じ首をかしげた。

どこかで会ったことがあるような……。
でも初めて見た気もする…。

父親の勘は人並外れて鋭い。その嗅覚が何かを感じた。

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