ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説 20.曲がった愛情

事故の電話を、受けた沙耶は「大丈夫だから。」なんて言う匠の言葉なんて耳に入るわけもなく、1時間あれこれ考えたあげく、匠の家に向かっていた。

「ってか、自分が事故したのになんで私に大丈夫?って言うの?」

電話口での匠はいつもに増して穏やかな口調で、沙耶をなだめるように話した。

「ごめんな。沙耶。ちょい運転ミスっちゃってさ。でも木にポコってぶつかっただけだから。」
「バスケ行けなくてごめんな。」
「沙耶、大丈夫か?」

「何私を心配してんのよ。大丈夫?は私のセリフでしょ?」

沙耶は匠の家の前でぶつぶつ言って怒っていた。
怒りながらも、心配で涙が出るわ、早く顔をみたいわ忙しい。

はぁーっ。ため息をつくと、ふわっと車のライトが光った。

「匠くん?」

眩しくてうっすら目を開けた。

匠だ。

「怪我は?痛いとこある?」

今にも泣き出しそうで、声が震えたが、確かに匠がそこにいるし、ひどい怪我もしてなさそうで力が抜けた。

「誰だねそちらは?」

低くて、冷たい声がした。

明らかに歓迎されていないことが伝わる。
そして鋭い目。

沙耶に衝撃が走った。
さっき抜けた全身の力が呼び戻されて一気に頭の先まで硬直した。

あの時の……。

沙耶の記憶がみるみる蘇った。

あの日、ヒロが池で溺れた日。
少年たちは確かに、ヒロがバイクにぶつかったと言った。
間違いなく、そう言って泣いた。

でも、警察にあの人が来た数時間後には少年たちは釈放された。
何の罰も受けることなく、一言も謝罪もなく……。

そして警察官に告げられた。

「息子さんは自分で誤って池に落ちたのでしょう。
 池の淵の石に乗って遊んでいたと言う目撃証言がありました。」

そんなはずはない。
ヒロは水がすごく苦手で、学校のプールも嫌いだった。
顔に水がかかるのが嫌で、真夏の暑い日でも水遊びはやりたがったことがない。

そんな子が、いつ落ちるかわからない淵の石に乗って遊ぶなんて……、あり得ない。

少年たちを探し当てて、何度も聞いたが、みんな答えは同じだった。

「よく覚えてない。」
決まってそう言って、目を逸らす。

あまりにも悔しくて、少年に怒鳴ってしまったりした為、今度は私が要注意人物とされてしまい、少年たちに近づく事も簡単には行かなくなった。

あの日警察署に来たあの人は、警視総監とかその位のすごい立場の人だったらしいが、何をしに来たのかは大体予想がついた。

あの人が……匠の父親。

沙耶の身体全身に鳥肌が立った。

ヒロを殺したのが匠。そして、その罪を揉み消してヒロになすりつけたのは父親。

私はこの親子に……。ヒロは……。

怒りで唇がガチガチと震えた。
息の仕方が分からない。

沙耶はライトが眩しいフリをして手のひらで顔を隠しつつ、精一杯の笑顔を作った。

「怪我が大した事無くて良かった。早く休んで。
 私は帰るから。それじゃ。」

引き止められないように、振り返らず早歩きでその場を去った。

「今は悟られちゃだめ。落ち着いて。落ち着くの!」

匠は父親と沙耶に置き去りにされ、両方に違和感を感じながら家へ入った。

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