沙耶はひとり、真っ暗な部屋の中で、ヒロの写真を眺めていた。
「ヒロ、ごめんね。ママ、少し迷ってた。ヒロの悔しい気持ちわかってるのに……もしかしたら、あいつを許そうとしてたかも」
「ごめんね。」
天井を見上げると視界がぼやーとぼやけて何も見えなくなった。
どんどんどんどん涙が溢れてきて、止まらなかった。
「ママ、何に惑わされた?」
自分が一番よく分かっている。
匠と出会った日。
2人で最初に行ったレストラン。
バスケのコート。
サンドイッチのキス。
次々と鮮明に思い出される。その時の匠の顔はすごく柔らかく温かい。それを掻き消すかのように沙耶は頭を横にブンブン振った。
「どれもこれも、復讐するため」
頭に浮かんだ匠との思い出も、想いも全てこれから始まる復讐の材料にする。
「まずは、記憶を取り戻して罪の重さを知るべきよ。」
ヒロの写真をじっと見つめて、深呼吸する。
「あなたは何も悪くなかった。それだけは絶対に証明するから。」
沙耶は携帯の連絡先から、消さずにいたあの日の少年たちの電話番号を探した。
「なんでもいいから情報があれば……。」
でも、どの電話番号も繋がらなかった。番号が変わっている。
やっぱり、匠自身の記憶を取り戻すか。
どうしたら思い出すか……。
ふっと、匠と父親との会話が頭に浮かんだ。
「しかし、この間例の発作が起きてねぇさんが迎えに行ってただろ?」
「……なぜかわからないけど、クラクションとか、車とかバイクの爆音とか?そーゆーの聞くと酷く頭痛が起きることはあります。」
クラクション…バイクの爆音……。
頭痛…。
これかな。
開いた窓から風が吹き込むと、暗闇の部屋に月明かりが差し込んだ。
沙耶の顔にうっすらと差した光に、夜空を見上げた。
冷ややかな夜の風が、カタカタとヒロの写真を揺らした。