ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説 26.飛行機

「綺麗な横顔……。」少し疲れてはいそうだが、落ち着いたようでスースーと寝息を静かに立てて眠る匠をみて沙耶が呟いた。

 わたし、……何してるんだろ。

「ん……。」匠が目を覚ました。
「あ、ごめん。寝ちゃってたのか。ごめんな。」

 匠は何かに少し怯えているように見えた。そして、これ以上踏み込むなと言わんばかりの『壁』を、出会ってから初めて感じた。

 そう……。じゃ私がその壁崩すしかないね。

 「この飛行機。これね、私の安定剤なんだ。」
沙耶はいつもカバンにつけて持ち歩いているキーホルダーを大事そうに摩りながら話し始めた。

 匠は黙って話を聞いた。

 「これに触れると、気持ちが落ち着いたり、逆に沈んだ気持ちをあげて励ましてくれたり。すごく大事な人が身に付けてたもので……これがその人の代わりにそばにいてくれてるのかなって。」

 匠はもう一度沙耶の飛行機をみつめた。

 沙耶は、匠の様子をじっと観察したが、飛行機を見て特別な反応はない。

 ヒロの飛行機を見たら、何か思い出すかもしれない。そう思った。あの事故の日の少年たちは、ヒロのズボンの飛行機をみんな見ていた。きっと匠もだ。

 自分の過去に関係することを話すのは、今まで絶対に避けてきたが、匠の記憶を呼び起こす為にはリスクがあっても仕方ない。

 お願い。思い出して……。

「大事な人は……今はいないって意味?だよね?」

 匠は躊躇しながら小声で聞いた。

「……。」答えようとしたが、突然胸がムカムカってして、強い吐き気がした。

 最近どうも体調が、悪い。沙耶は急いで車から出て外の空気を吸った。

「どうした?大丈夫?」匠が心配そうに沙耶の顔を覗き込む。

「大丈夫。ちょっと最近胃の調子が悪くて……。胃もたれかな?なんか、気持ち悪いんだよね。」

 ん? ちょっと待って? 沙耶はハッとして考えた。

 「とりあえず、大丈夫だから。じゃ私このまま帰るね。またLINEするね。」

 沙耶は慌てて車に乗り込んで、忙しなく匠に手を振った。

 匠は呆然とそれを見送った。

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