沙耶は部屋について、上着も脱がす手帳を勢いよく広げる。
先月はいつ来た?いつも来ると記す月のマークが無い。
まさか……。ですか?
沙耶はさっきまでの慌ただしさとは打って変わって、微動だにしない。部屋の中が静まり返っていて、窓の外のどこかの家の犬の鳴き声が響く。
「出来た?」
写真立ての中で微笑むヒロの顔をみつめた。
何時間経っただろうか……。部屋に帰ってきた時間すら覚えてないから余計わからない。
ただ、沙耶の腹がぐうーっと空腹をアピールしたので、なかなかの時間が経っていそうだ。
「こんな時でも腹は減るってか。」仕方ない、調達しに行こう。
とりあえず、真相は確かめるしかない。そう思って、食品も置いているドラッグストアに行き先を決めた。
周りをチラチラっと見回して、さっと妊娠検査薬をかごに入れた。別に悪いことしているわけじゃないのに、なんだか周りが気になるものだ。
レジは最近セルフがあって便利だ。そそくさと店を出て帰りを急いだ。
元々沙耶は、どっちか分からないグレーゾーンは何に関しても嫌い。服もそうだ。白なら白!黒なら黒!どっち付かずの特にパステルカラーなんて服はあまり着ない。
物事についてもはっきりさせたいタイプだ。
部屋に着くと、すぐさま買ってきた妊娠検査薬を取り出し、黙ってトイレに入った。
さすがに緊張してきた。大きく息を吸って思いっきり吐き出した。
「よし。」
目を閉じて、結果の線が出る窓を開けた。恐る恐る目を少しずつ開けて行く。
「……。」
しっかり白黒付けてくれた。くっきり線だ。
「出来た……か。やっぱり。」
匠は何て言うだろうか。沙耶の頭には、前夫の信じられない言葉が蘇ってきた。
「別に欲しくなかったのに。」
前夫のその言葉にかぶさるように、匠の口からその言葉がでる場面が、沙耶の頭の中で再生される。
匠は何て言う?どんな反応するの?
沙耶はそっとお腹に手を当てた。
ヒロがそばにいるように、温かかった。