「捜査だ。署に戻る。」
ただそれだけ言って、父親は去った。
匠は冷たくなった缶コーヒーをカチッと開けて、一気に飲み干した。
「なんなんだ?」
捜査?あんなお偉いさんが、直々に捜査?
匠はブツブツと独り言を呟きながら、もう一度公園の方へ戻っていた。そして、花とお菓子が供えられたあの場所で立ち止まった。
きっと幼い子が亡くなったんだろうな。可哀想に。
目を閉じて空を仰ぐと、
「たしか、6歳くらいだったよ。」
いきなり声がしたのでびっくりして、振り返ると、また驚くことにさっきの不気味な『誰か』がまたあの笑みを浮かべて佇んでいた。
「6歳くらいの男の子でね。バイクとぶつかってこの池で亡くなったんだよ。たしか、4年くらい前かな。」
「さっきの車の人がそれ、供えて手合わせてたけど。君はさっきの人知り合い……だよね?」
聞いてはいるが知っている様子で、すごく気分が悪くなる聞き方で腹が立つ。
「父親です。」
「あー!警視総監様の御子息様でいらっしゃいましたか?」
ますます気持ちの悪い笑みを……通り越して、ガハガハと下品な笑いを響かせて続けた。
「なるほどー!だから張本人のあなたもここに手を合わせに来たってわけだ?」
張本人?は? こいつ、何言ってんだ?
匠は意味が分からないが、とにかく無性に腹が立って、眉間にシワを寄せて黙っていた。
「あっ。もしかして、まだ知らないんだっけー?
あーまずいなー。変な事言っちゃった?」
匠の周りを顔をちょこちょこ近づけながら、ニヤニヤして言う。
「ごめん。ごめん。何でもなーい!忘れてー!」
そう笑いながら、去ろうとするそいつの胸ぐらを匠は掴んで引き寄せた。
「何言ってんだ?お前」
そいつは、匠の顎をスッとなぞって、
「乱暴だなー。また人殺めちゃうの?」
は?匠は寒気がして、そいつを突き放した。
「まぁいいかぁ。どーせ、忘れちゃうもんね。やっちゃっても。」
「しかもパパが事実も綺麗さっぱりお掃除してくれるし。思い出さない方が良いよねー?思い出しても知りませーんで良いっしょ。」
「まぁ、それが君のためだ! じゃ俺も無い者として去るわ。」
匠はいつのまにか落としていた、缶コーヒーに足をとられひっくり返ってしまった。
倒れたまま空をいつまでも、見つめた。
「俺は誰を?」
「父さんは何を?」
閉じた目から、涙が溢れてアスファルトに沈んだ。