『もう帰るとこ。店のうまいやつ、お土産にしたから持ってっていー?』
匠は杏との食事を早くあっという間に切り上げて、すでに沙耶の部屋へ足を向けていた。
LINEは、既読にならない。
『もー寝た? でもまだ8時だよな?さすがに寝ないだろ?』
風呂でも入ってるか?
返信が待ち切れず電話することにした。
♫ちゃらちゃらちゃららん。
珍しく沙耶が電話に出ない。
突然部屋に行くのも……と思い、返信が来なかったらお土産は持ち帰ろうと思っていたが、なんとなく胸騒ぎがする。
この間元気なかったしな……。
ちょっと行ってみるか。
匠は急いで沙耶の部屋へ向かった。
ピンポーン。
電気が消えている。
「出掛けた?」
沙耶の携帯に電話してみると、かすかだが部屋の中から着信音が聞こえる。
ピンポーン。
キッチンの小窓から、ベランダ側の窓が開いていて、カーテンが揺れるのが見える。
匠はすごく嫌な予感がして、ドアをドンドン叩いた。
「おい、沙耶?いるんだろ?返事してくれよ。」
もう一回キッチンの小窓から目を凝らして沙耶の姿を探す。
床には白い錠剤がこぼれていた。
匠の血の気が一気に引いた。
「おい!なにしてんだ!沙耶!」
沙耶の部屋の窓が開いているのは見えた。
「隣のベランダから行けるな。」
匠は隣の部屋のドアを叩こうとした瞬間。
ガチャっ。
沙耶が気怠そうな様子ででてきた。
「匠くん!?……どうしたの?」
匠はすぐに沙耶に駆け寄って、顔を触った。
……あったかかった。
「ふぅーっ。」
匠は全身の力が抜けて沙耶の手を握りながら床に座り込んだ。
「まじ、びびったぁ。」
「匠くん?」
匠は顔をあげると、少し疲れた様子ではあったが、いつもの沙耶がいた。
思いっきり沙耶を抱きしめた。
「なんか、俺ひとりで変なこと考えた。沙耶がいなくなるかと。」
「よかったぁっ。」
沙耶は抱きしめられながら匠の身体が冷え切っているのに気がついた。
「身体、冷たいよ?」
沙耶を無言でじっと見つめた。
「あっためて。」
匠は沙耶と自分をすっぽり布団に包み込んだ。
「あったかっ!」
2人は見つめあって、お互い少し照れた。
「寒いの嫌いだけど、この寒いときの布団中とか、あったけー鍋とか最高に幸せだよな。」
「たしかに。」
2人ほっこりして笑った。
「まだ足冷たい。」
「手は?」
互いに触れ合う。
「唇は?」
唇を重ねた。
「まだ冷たいね。あっためてあげる。」
匠はそう言って何度も沙耶の唇を優しく包み込んだ。
2人の熱い吐息と体温で、すっぽり被った布団の中がすっかり暑くなった。
「んー。暑い……もうだめ。」
布団から息をあげながら顔をだした。
頬を赤く火照らせた沙耶の顔がすごく綺麗で
「そんなに煽ぐなよ。」
匠は沙耶の唇を今度は熱く激しく覆い、首筋から鎖骨をたどった。
「んっ。」
思わず声がもれた。
ふたりは、熱くも優しい夜の帳に包まれた。