ちゃらんぽらんじゃなさそうなプチ小説  35.視線

身体がふわふわして軽い割には、どんどん底へ落ちていく。

さっきまで眩しかった太陽の光が、次第に遠ざかる。

息苦しくて、手を地上へ向けて伸ばすのに容赦なく身体は水底へと引きずり込まれる。

水の中だ!苦しい。息ができない。

「助けて。」

匠はハッと目を覚ました。苦しいが息ができる。

夢か?

ったく、夢でも覚めても結局苦しい。
なんなら目を覚さなくても良かったのに。

俺は…これからどう生きろってんだよ。

『赤ちゃんができたみたい。』沙耶の告白が浮かぶ。
匠の目にも涙が浮かぷ。

気だるくて、鉛を付けているような全身をなんとか起き上がらせてとりあえず外に出た。

今まで何気なく見ていた風景には、色がないように見える。
鮮やかな色彩はまるでない。
視界の全てがグレーがかってくすんでみえた。

道を歩く人達が、何か話すと、自分のことを噂してるんじゃないかと怖くなる。

「あのひと、人殺しだそうよ。」
「おいっ。あいつじゃね?なんかこども殺したとかって。」

誰もがそんなことを噂している気がする。
なんなんだ。この視線のうっとおしさ。

10分歩いただけで、ずっと力が入っている肩はパンパンに張り、大粒の汗が額を濡らしていた。

「頼む…誰か、俺が何をしたか。ちゃんと教えてくれっ!」

自分の記憶にない罪は、耐え難い恐怖感と罪悪感を匠に重たく背負わせた。

沙耶は病院に居た。
無意識にお腹をさする。

『ごめんね。私はたぶんあなたを幸せにしてあげられないんだ。』

沙耶の気持ちは前より少し変わっていた。
小さな命は、確実にここにいるのだ。

たぶんまだ私の掌にも十分収まる小さな小さな命だけど。
そんな小さなこの子に、『復讐』なんて一緒に背負わせていいの?

ダメに決まってる。
分かってる。そんなこと。でも、ヒロは?ヒロが報われない。

違う場所にいるが、沙耶と匠はふたり、深く悲しいため息をついていた。

もー疲れた…。

私は

俺は どうしたら良い?

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